「ホテル投資はRevPARさえ高ければ成功する」そう考えている投資家は少なくありません。しかし実際には、RevPARが高水準でも想定通りの利益が出ないケースや、逆にRevPARは平凡でも堅実に収益を上げ続けているホテルも存在します。
RevPARはホテル業界で最も重視される収益指標の一つですが、この数字だけを見て投資判断を下すのは危険です。なぜなら、RevPARは客室売上の効率性を示す一方で、コスト構造や市場変動リスクまでは教えてくれないからです。
本記事では、RevPARの正しい意味と計算方法、ADR・OCCとの関係性を基礎から解説したうえで、投資判断で見落としがちな注意点や、ホテル投資のリスクを抑えるための実践的なポイントをわかりやすく専門的に解説します。
RevPARとは?ホテル経営に欠かせない収益指標

RevPARは客室の収益力を一つの数字で表す指標
RevPAR(Revenue Per Available Room)とは、販売可能な客室1室あたりの平均収益を示す指標です。
言い換えると、全客室が均等に稼いだ売上額を表す数値で、客室総売上高÷販売可能客室数という計算式で算出されます。空室も含めた平均値となるため、単に稼働した客室の売上だけでなく、稼働していない部屋の稼げなかった分まで織り込んだ実質的な客室収益力を把握できるのが特徴です。
このため、RevPARはホテル全体の稼ぐ力を一つの指標で示す重要な役割を果たします。
ホテル業界で最も使われる経営指標の一つ
RevPARはホテル業界における代表的な経営指標の一つで、客室稼働率(OCC)や平均客室単価(ADR)と並んで広く重視されています。ホテルのトップライン(売上)パフォーマンスを示すゴールデン指標とも言われ、規模や客室数に関係なく収益性を比較できるため、多くのホテル経営者が注目しています。
実際、ホテル業界では客室稼働率・ADR・RevPARの3つが主要業績KPIとして採用されており、RevPARがホテル経営の健全性を測るうえで不可欠な指標であることがわかります。
なぜRevPARが重要なのか?経営の成功を左右する理由

単なる売上ではなく稼働率と単価の両面を示すから
RevPARが重視される最大の理由は、売上を客室稼働率と客室単価の2要素に分解して一目で示すからです。単に総売上だけを見ても、それが高い料金設定によるのか、高い稼働率によるのかは分かりません。
一方、RevPARは稼働率(OCC)と平均単価(ADR)のバランスを反映するため、どちらか一方だけでは測れないホテル全体の収益効率を把握できます。例えば稼働率100%でもADRが極端に低ければRevPARも低く抑えられますし、逆にADRが高くても稼働率が低ければ収益は伸び悩みます。
このようにRevPARは量と価格の両面から収益状況を評価できる指標なのです。
競合比較や成長戦略の指標として活用できる
RevPARは自社と競合ホテルの収益力を比較するベンチマーク指標としても有用です。競合のRevPARと比べれば、自社の客室収益性が市場平均に対してどの程度上回っているか・下回っているかが客観的に把握できます。
例えば近隣の競合ホテルのRevPARを目標値に設定すれば、自社の具体的な改善目標を立てやすくなるでしょう。また、競合他社のRevPAR推移を分析すれば市場全体の需要動向や季節変動の把握にもつながり、自社の成長戦略立案に役立てることができます。
実際、ホテル業界ではRevPAR分析を通じて価格戦略や販売戦略を練り、長期的な経営計画の指針とするケースも多く見られます。
投資家や金融機関も評価基準として注目している
RevPARはホテル運営者だけでなく、投資家や金融機関がホテルの収益性を評価する際の重要な判断材料にもなります。
金融機関向けの事業性評価の参考資料でも、現地ヒアリング内容とRevPARの動きを照らし合わせて事業性を評価する観点が示されており、銀行がホテル支援や融資判断を行う際にもRevPARが指標の一つとなっています。さらにホテルへの投資判断においても、改装などの設備投資がRevPARに与える影響を予測することで投資回収期間や将来収益性の妥当性を分析できるとされています。
このようにRevPARはホテルの収益力を示す健康診断とも言える指標であり、ホテル経営の成功や投資の判断を左右しうる重要な数値なのです。
RevPARの計算方法を2つの公式で解説
【公式1】売上から求める計算式(売上÷総客室数)
RevPARはまず客室売上合計÷総客室数で計算できます。
例えば、100室のホテルでその日の客室売上が合計50万円であれば、RevPAR=500,000円÷100室=5,000円となります。
この公式では販売できなかった空室も含めて平均化するため、1室あたりが実際いくら稼いだかをシンプルに算出できます。ホテル全体の売上データと総客室数さえわかれば簡単に求められるため、日次や月次の業績把握にも用いられる基本公式です。
【公式2】ADRと稼働率から求める計算式(ADR×稼働率)
もう一つの公式はADR(客室平均単価)×OCC(客室稼働率)で計算する方法です。ADRは実際に販売した客室1室あたりの平均売上、OCCは客室の稼働割合を示すので、その積をとることで平均単価と稼働率の両要素からRevPARを導出できます。
例えばADRが1万円、稼働率が80%(0.8)なら、RevPAR=1万円×0.8=8,000円となります。
この公式はホテル運営で日常的に使われる指標をそのまま活用できるため、ADRと稼働率を把握していればRevPARも自動的に計算できる利点があります。
どちらの計算式を使うべきかの判断基準
結論から言えば、どちらの公式で計算しても得られるRevPARの値は同じです。したがって、利用しやすいほうのデータに基づいて計算すればOKということになります。
売上総額が把握できているなら公式1(総売上÷客室数)が手っ取り早く、日々のADRや稼働率を管理している場合は公式2(ADR×OCC)が便利でしょう。
重要なのは定期的にRevPARを算出して推移を追い、経営の参考指標とすることです。いずれの方法でも計算はシンプルですので、自社のデータが揃っている方で算出し、常に最新のRevPARを把握して意思決定に活かすようにしましょう。
ADR・OCCとの違いと3つの指標の関係

ADR(平均客室単価)は1室あたりの売上を示す
ADR(Average Daily Rate)は客室平均単価、つまり販売された客室1室あたりの平均売上単価を表します。計算式は客室売上合計÷販売客室数で、実際に売れた部屋だけを母数として算出されます。
例えば1日の客室売上が10万円で4室が販売された場合、ADRは10万円÷4室=25,000円です。この数値はそのホテルの客室1室を平均いくらで販売したかを示し、価格戦略の指標になります。
ただし空室は計算に含まれないため、ADRが高くても稼働率が低ければホテル全体の売上は伸び悩む点に注意が必要です。言い換えれば、ADR単体ではホテル全体の収益規模までは把握できず、あくまで販売客室の単価を見る指標に留まります。
OCC(客室稼働率)は部屋の埋まり具合を示す
OCC(Occupancy Rate)は客室稼働率のことで、利用可能な客室のうち実際に販売・稼働した客室の割合を示す指標です。計算式は稼働した客室数÷総客室数×100(%)となります。
例えば100室のホテルでその日に30室が売れた場合、OCCは(30÷100)×100=30%です。この数値が高ければ順調に部屋が埋まっている、低ければ空室が多いことを意味し、需要動向や集客状況を直感的に把握できます。
しかし、稼働率はあくまで利用状況の割合を示すだけで、売上そのものを示すものではありません。極端な例では、稼働率が100%でもADRが2,000円と低ければRevPARも2,000円に過ぎず、利益は高まりません。
したがってホテルの経営状態を正しく把握するには、稼働率と合わせて後述のADRやRevPARと併せて判断する必要があります。
RevPARはADRとOCCを掛け合わせた総合指標
RevPARはADR×OCCで算出される総合指標であり、ADRと稼働率という二つの指標の関係性を一つの数値に凝縮したものです。言い換えると、RevPARが示すのは空室も含めて実際どれだけ稼げたかという実質的な収益力です。
例えば客室数10室の小規模ホテルで、1室だけが1泊1万円で売れた場合、ADRは1万円ですがRevPARは1万円÷10室=1,000円となります。
このようにRevPARは売れなかった9室分の機会損失も加味した収益指標であり、ADRやOCCのどちらか一方だけを追っていては見えてこないホテルの真の稼ぎを示してくれます。実際、ADRとOCCが異なる2つのホテルでもRevPARが同程度であれば、収益力は同等だと判断できます。
逆に言えば、RevPARを高めるにはADRとOCCの双方をバランス良く向上させる必要があり、どちらか片方だけでは不十分です。このような包括的な特性から、RevPARはホテルの収益性を総合評価する指標として多くのホテルで重視されています。
投資判断に役立つRevPARの見方と注意点

高いRevPARでも固定費が大きければ利益は伸びない
RevPARは客室の売上高に着目した指標であり、経費やコスト構造は考慮されていません。そのため、RevPARの数値が高くても人件費・光熱費・減価償却費など固定費が嵩めば純利益は思うように伸びない場合があります。
極端な例として、高級ホテルはRevPARが高水準でもサービス維持のための人員や設備コストも大きいため、必ずしも利益率が高いとは限りません。実務上は販売手数料やポイント還元、決済手数料なども差し引いたNet RevPARという指標で収益性を捉えることもあります。
投資家目線では、RevPARと併せて営業利益率(GOP比率)や営業利益PAR(GOPPAR)などコスト面を含む指標も確認し、収益がどれだけ利益に結びつくかを評価することが重要です。
短期的な変動よりも中長期の平均値で判断する
RevPARは季節要因や一時的なイベントによって短期的に大きく変動することがあります。そのため、投資判断では月次・四半期など短期の数値に一喜一憂するのではなく、年間平均や数年単位の推移を重視するのがおすすめです。
例えばゴールデンウィークや大型イベント開催時にはRevPARが一時的に急上昇し、逆に災害やパンデミック発生時には急落することがあります。観光庁の統計では、コロナ禍突入前の2019年に全国平均62.7%だった客室稼働率が、2021年度には34.3%にまで低下しました。
こうした特殊要因によるブレを平準化するために、中長期的な平均RevPARや前年比推移を見ることで、そのホテルの真の実力や回復力を見極められます。また、過去のRevPARトレンドを分析して成長率や変動パターンを把握することも有効で、将来予測やバリュエーションの精度向上につながります。
他の指標と併用して投資リスクを見極める
RevPARはホテルの稼ぐ力を示す有用な指標ですが、これ単独ですべての投資リスクを評価できるわけではありません。より正確な判断を下すには、他の財務指標や運営指標と組み合わせて多角的に分析することが大切です。
RevPARと併せて客室稼働率(OCC)やADRの個別動向を確認すれば、RevPARが高いのは高単価によるものか、高稼働によるものかといった要因を掘り下げられます。また、総収入に占める客室以外の収益(TRevPAR) や、営業利益率・キャッシュフロー指標なども検討すべきでしょう。
同様に、財務健全性(負債比率)や利回りなども加味しつつ総合判断することで、ホテル投資のリスクをより正確に見極めることができます。実際、ホテル運営の現場でも稼働率だけでなくADRやRevPARを総合的に判断すべきとされており、投資家も多面的な指標分析で安全性を担保する姿勢が求められます。
リスクを抑えるために検討したい分散投資という選択肢

ホテル投資だけに集中するリスクを理解する
ホテル市場は景気動向や社会情勢の影響を強く受けるため、ホテル投資に資産を集中させることは大きなリスクを伴います。典型例が新型コロナウイルスのパンデミックで、2020年以降世界中で観光需要が蒸発し、ホテルの平均稼働率が前年比で大幅下落(日本全体では約63%→34%に低下)しました。このように突発的な外的要因でRevPARや収益が激減するケースもあるため、ホテル単一への投資は収益が不安定になりやすいと言えます。
また、ホテル業界特有のリスクとして災害による風評被害や同地域内での供給過剰、さらに構造的な人手不足や運営コスト上昇などもあります。個人投資家にとって、ポートフォリオ全体がホテル業界の浮き沈みに左右される状況は避けたいところでしょう。
したがって、ホテル投資は魅力的であってもそれだけに集中しないことが大切であり、他の資産クラスとのバランスを取った分散投資でリスクヘッジを図る必要があります。
複数の資産クラスに分散することでリスクを軽減できる
リスクを抑えつつ安定したリターンを追求するには、異なる資産クラスや案件に分散投資することが有効な戦略です。ホテル投資と値動きの異なる資産、たとえばオフィス・住宅など他種類の不動産や、株式・債券、さらには融資型クラウドファンディングなどを組み合わせれば、ある投資先の不調を他の収益で補い合うことができます。
異なる市場要因に左右される資産を複数保有することで、ポートフォリオ全体のボラティリティ(変動幅)を抑え、安定した資産成長が期待できます。
また同じホテル投資内でも、地域やグレードが異なる複数のホテル案件に少額ずつ投資することで、一つの案件に問題が起きた場合の影響を限定的にできます。例えば、都市シティホテルと地方リゾートホテルに分散投資すれば、平常時は双方から収益を得つつ、不況時でもどちらかが相対的に堅調である可能性が高まります。
もちろん分散すればリターンも平準化されますが、卵を一つの籠に盛らない分散投資は長期的な資産運用のリスク管理として基本かつ重要な考え方です。
少額から始める堅実投資「LENDEX」の融資型クラウドファンディング
LENDEXは、2万円という少額から始められるため、投資初心者にも取り組みやすい融資型クラウドファンディングです。想定利回りは年6~10%と、銀行預金よりも高いリターンが期待できるうえ、不動産担保ローンへの出資となるため、相場変動の影響を受けにくく安定した運用が可能です。
また、毎月の分配金があるため、継続的なインカムゲインを得られる点も魅力です。多くの案件に担保や保証が設定されており、万が一貸し倒れが発生しても、担保処分などで出資金の回収が図れます。
さらに、サービス開始以来、貸し倒れゼロの実績を誇る点も投資家にとって安心材料です。ただし、元本保証はないため、リスク分散が重要です。複数のファンドに少額ずつ分散投資することで、リスク軽減を図ることができます。
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【FAQ】RevPARやホテル投資に関するよくある質問

RevPARは高ければ高いほど良いのですか?
基本的にはRevPARは高いほど客室の収益性が優れていると評価できます。
ただし、一時的なイベントで急上昇している場合や、料金を上げすぎて稼働率が極端に落ちている場合などは注意が必要です。極端な例では、高ADRでRevPARが上がっても顧客満足度低下でリピーターが減るケースもあるため、継続的かつバランスの取れたRevPAR成長が望ましいでしょう。
RevPAR・ADR・OCCの違いは?どれを重視すべき?
RevPARは稼働率(OCC)と平均単価(ADR)を掛け合わせた総合指標で、ホテル全体の稼ぐ力を示します。
一方、ADRは売れた客室の平均価格、OCCは部屋の稼働割合を示す指標です。それぞれ役割が異なりますが、収益全体を見るにはRevPARが有用です。ただし、戦略立案時にはRevPARの背後にあるADRとOCCのバランスを分析し、どちらに課題があるかを判断することが重要です。
ホテル投資初心者でもRevPARを投資判断に活かせますか?
はい、初心者の方でもRevPARを投資判断に活用できます。
難しい計算は不要で、そのホテルが1室あたりどの程度の売上を上げているかを見るだけで収益力を客観的に把握できます。例えば、候補ホテルのRevPAR推移や同エリア平均との比較を見ることで、そのホテルの成長性や競争力を直感的に判断でき、専門知識がなくても投資判断の参考になるでしょう。
まとめ|RevPARを理解してホテル経営と投資判断に活かそう
RevPARはホテル経営の収益性を総合的に示す指標であり、ADRや稼働率と併せて活用することでそのホテルの稼ぐ力を立体的に把握できます。例えば、ADR1万円・稼働率80%のホテルではRevPARは8,000円となり、価格と稼働のバランスを一目で示します。
投資家にとってもRevPARは案件選定やリスク評価の重要な判断材料となり得ます。ただし、RevPARだけにとらわれずコスト構造や他の指標も勘案し、さらに分散投資でリスクを抑えることが肝要です。
ホテル投資を検討する際は、本記事で解説したRevPARの意味と使い方を踏まえて、長期的に安定したリターンが望める賢明な判断を行いましょう。
参考元
- ・観光庁:「宿泊旅行統計調査(令和元年・年間値(確定値))」
- ・観光庁:「宿泊旅行統計調査(令和3年・年間値(確定値))」
- ・観光庁:「宿泊業の高付加価値化のための経営ガイドライン」
- ・金融庁:「業種別支援の着眼点(宿泊業)」(2025年3月)
- ・厚生労働省:「旅館業の実態と経営改善の方策」
- ・経済産業省・厚生労働省:「旅館業に係る事業分野別指針」
- ・観光庁:「宿泊施設における生産性向上の促進」








