最近、「iDeCo(イデコ)に月1万円積み立てても意味がないのでは?」といった声を耳にすることがあります。しかし、それは本当なのでしょうか?
本記事では、iDeCoの基本から税制メリット、月1万円積立が意味ないと言われる理由、さらにシミュレーションによる将来受取額の試算まで、幅広くやさしく解説します。少額からでも老後資金作りを効率よく進めるポイントや、他の投資との併用戦略、そして月1万円から積立額をステップアップする方法も紹介します。最後まで読めば、月1万円のiDeCo積立でも「意味ある」制度にできる理由がわかるはずです。
iDeCoの基本|制度の仕組みとメリットをおさらい
まずはiDeCo(個人型確定拠出年金)の基本をおさらいしましょう。iDeCoとは、公的年金(国民年金・厚生年金)とは別に、自分で積み立て・運用して60歳以降に受け取ることができる私的年金制度の一つです。公的年金が国民全員対象の「土台」とすれば、iDeCoはそれに上乗せして任意加入で老後資金を準備する「自助努力」の制度と言えます。
iDeCoとは?仕組みと対象者
iDeCoでは、自分で決めた掛金(積立金額)を毎月積み立て、その資金を自分で選んだ金融商品(投資信託、定期預金、保険商品など)で運用します。運用結果次第で将来受け取れる金額が変わりますが、運用益が出ても税制優遇があるのが特徴です。
加入できる対象者は20歳以上60歳未満のほぼ全ての方です(国民年金保険料免除中の方等を除く)。会社員、公務員、自営業者、専業主婦(夫)など幅広く加入可能で、現行制度では原則65歳未満まで掛金拠出ができます。
掛金は月5,000円から1,000円単位で自由に設定でき、職業等に応じて上限額が決まっています。例えば、自営業者等(国民年金第1号被保険者)なら月68,000円まで、会社員(第2号)なら勤務先の企業年金の有無によって月20,000円または23,000円まで、専業主婦(第3号)なら月23,000円までといった具合です。一方で最低掛金は一律5,000円です。したがって「iDeCoは月1万円からでも利用可能」なのは確かですが、そもそも5,000円から始めることもできます。
また、iDeCoに加入する際は口座を開設する金融機関(運営管理機関)を選ぶ必要があります。運営管理機関によって取り扱う商品や手数料が異なるため、口座開設前に比較検討することが重要です。なお、どの金融機関でも共通で口座管理手数料がかかる点には注意が必要です。
税制優遇の3つのメリットとは
iDeCo最大の魅力は何と言っても税制上の3つのメリットです。少額からの積立であっても、この税制優遇をフルに活用すれば「意味ないどころか大いに意味がある」運用が可能になります。
掛金が全額所得控除になる
iDeCoの掛金は全額が所得控除(「小規模企業共済等掛金控除」)の対象です。簡単に言うと、積み立てた掛金の分だけ課税所得が減り、その分の所得税・住民税が軽減されます。例えば毎月1万円を積み立て、所得税率10%、住民税率10%の方なら、年間で約2万4千円の税金が軽くなります。税率が高い高収入の方ほど節税効果がさらに大きくなります。
運用益が非課税で再投資される
通常、投資信託の分配金や売却益、預金の利息など運用で得た利益には約20.315%(所得税+住民税)の税金がかかります。しかしiDeCo口座内で発生した運用益はすべて非課税扱いとなり、そのまま再投資されます。長期にわたり利益に課税されない効果は大きく、複利運用の威力を最大限引き出せます(※なお、本来課税されるはずの特別法人税は現行法で課税停止中です)。
受け取る時にも大型控除が受けられる
iDeCoの受取方法は年金形式(分割)か一時金(一括)のいずれか、または組み合わせを選択できます。受取時も税の優遇があり、年金形式で受け取る場合は公的年金等控除、一時金の場合は退職所得控除の対象となります。退職所得控除は勤続(加入)年数に応じて何百万円もの非課税枠が与えられる制度です。例えばiDeCoに38年間加入した人の場合、退職所得控除額は2,060万円にもなり、仮に一時金で2,000万円を受け取っても税金はかかりません。このように、積立時・運用中・受取時のすべてで税優遇がある点がiDeCoの最大のメリットです。
以上のような制度設計により、iDeCoは「節税しながら老後資金を作れる」のが強みです。では、そんな魅力あるiDeCoにも関わらず、「月1万円じゃ意味ない」と言われてしまうのはなぜでしょうか? 次の章では、その理由を考えてみます。
月1万円の積立は意味がない?と言われる理由
「iDeCoで月1万円積み立てても意味ないのでは?」と言われる主な理由として、以下の3点が考えられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
老後資金としては少額すぎる?
まず指摘されるのが、「月1万円では老後資金として焼け石に水ではないか」という点です。公的年金だけでは足りない老後資金を補うには、必要額に比べて1万円(月額)の積立では圧倒的に少額すぎるという懸念があります。
よく知られるようになった例が、いわゆる「老後資金2,000万円問題」です。2019年の金融庁金融審議会の報告書で示唆されたもので、平均的な高齢夫婦無職世帯では毎月約5万円の赤字(支出超過)が発生し、それが30年間続くと約2,000万円不足するとの試算が話題になりました。もちろん生活水準や年金額によって必要額は人それぞれですが、「老後に2,000万円規模の備えが必要」という目安は広く認識されています。
では月1万円の積立で実際どの程度の資金が用意できるでしょうか。仮に30年間(例えば30歳から60歳まで)休まず積み立てた場合、元本ベースでは総額360万円にしかなりません(1万円×12ヶ月×30年=360万円)。これを年利3%程度で運用できたとしても後述するシミュレーション結果では約580万円ほどにしかならず、2,000万円には遠く及びません。また20年間の積立なら総額240万円程度にしかならず、運用益込みでも数百万円規模です。つまり、老後資金全体から見ると月1万円の積立では不足感が大きいのは事実です。
もちろん、iDeCo以外にも財形貯蓄や企業年金、預貯金、他の投資商品などで老後資金を用意するケースが多いでしょう。しかし「iDeCoだけで老後資金を満たそう」と考えると、1万円では心許ないのは否めません。そのため、「意味ない」と言われてしまう一因になっています。
手数料がリターンを圧迫する可能性も
次に、手数料コストの問題があります。iDeCoではどの金融機関で口座を開設しても共通で一定の手数料がかかります。具体的には口座開設時に2,829円程度の初期手数料、運用期間中は毎月171円(年額2,052円)の口座管理手数料が最低でも発生します。この171円というのは国民年金基金連合会や信託銀行に支払う分で、金融機関によってはさらに上乗せ手数料がある場合もあります(近年は多くの金融機関が自社分は0円としています)。
月1万円という少額で積み立てる場合でも、この毎月171円のコストは固定です。仮に金融機関の運営管理手数料が0円でも最低171円は差し引かれます。1万円に対する171円の割合は約1.7%ですから、年間ベースでは掛金の2%程度が手数料で消える計算になります。運用利回りが例えば3%程度であれば、そのうち1.7%分は手数料で相殺され、実質的な手取り利回りは1%台に目減りしてしまいます。極端な話、運用がうまくいかず利回りが1~2%程度に留まると、手数料負けする可能性すらあるわけです。
さらに言えば、iDeCoでは運用商品として投資信託を選べば信託報酬(運用管理費用)もかかります。信託報酬は運用残高に対して年率0.1~1%程度(商品による)のコストです。こちらも残高が小さいうちは金額自体は小さいものの、リターンをじわじわと削る要因になります。
以上より、「月1万円程度の小さな積立だと手数料負けして意味がない」という指摘が出てくるのです。特に掛金が少ないほど手数料負担割合が高く感じられるため、そのように思われがちです。実際、「iDeCoは口座管理手数料がかかるから少額積立だと損では?」と懸念する声もあります。
資産運用の「複利」の効果が薄くなるケース
3つ目の理由は、複利効果が実感しづらいケースがあることです。資産運用では、利益を再投資することで利益が利益を生む複利の力が大きな武器となります。ただし複利効果が十分発揮されるためには「ある程度まとまった元本」と「長い運用期間」が必要です。積立額が極端に少額だと、たとえ数十年積み立てても増加額自体が小さく、複利の恩恵をあまり感じられない可能性があります。
例えば、毎月1万円を年利5%で運用しても、最初の1年間で得られる利息は平均残高約6万円に対して5%程度(約3,000円)に過ぎません。その利息を再投資しても元本+利息が約60万3千円になるだけで、元本60万円と比べて増加率はわずかです。これが積立額10万円なら利息3万円と一桁違いになります。元本規模が小さいうちは複利で増える額も小さいため、「増えている実感がない」と感じやすいのです。
また、運用期間が短い場合も複利効果は限定的です。仮に50歳から60歳までの10年間だけiDeCoを積み立てた場合、元本も運用期間も不足するため、大きく増やすのは難しいでしょう。運用利回りが低迷したケース(たとえば定期預金や債券中心で年利1%未満など)では、尚更に複利の威力は発揮されません。少額・短期間・低利回りが重なると、確かにiDeCoで増やせるお金はごく僅かになってしまい、「意味がない」と言われる状況になり得ます。
原則60歳まで引き出せない
最後に指摘されるのが、「iDeCoは原則として60歳まで引き出せない」という点です。iDeCo(個人型確定拠出年金)は、公的年金を補う私的年金制度で、老後資金の形成を目的としています。そのため、一度積み立てた資金は原則として60歳になるまで引き出すことができません。途中解約もできず、たとえ医療費や教育費、住宅購入といった急な出費が発生しても、iDeCoの資産を取り崩すことはできません。
この「資金の流動性が極端に低い」という点は、初心者の投資家にとって特に注意が必要です。iDeCoには掛金の全額が所得控除されるなどの税制優遇がある反面、資金を自由に使えないリスクがあることを理解しておく必要があります。月1万円の積立は決して無駄ではありませんが、万一の出費に備えて、生活費の3〜6か月分程度は預貯金などで確保しておくことが望ましいでしょう。
iDeCoはあくまで長期の老後資金形成に特化した制度です。他の制度(つみたてNISAや預金)と目的ごとに使い分けながらバランスよく活用することが、資金繰りと老後準備の両立につながります。
以上のように、「老後資金には少額すぎる」「手数料負けするかも」「複利の効果が薄い」「原則60歳まで引き出せない」といった点から、月1万円のiDeCo積立に懐疑的な意見が出てくるわけです。
シミュレーション|月1万円のiDeCo積立でいくらになる?
ここでは、月1万円を積み立てた場合に将来どのくらいの資産が形成できるか、いくつかの前提でシミュレーションしてみましょう。利回り(運用の年平均リターン)別、および運用期間(積立期間)別に試算し、「少額でも長期ならこれだけになる」という具体的な数字を確認します。
前提条件:毎月1万円を年利○%で積立運用、運用益は全額再投資(複利運用)、税金はiDeCoなので非課税。※手数料や運用商品の信託報酬等は考慮しない単純計算とします。
利回り3%でのシミュレーション
まず、年平均利回り3%で運用できたケースです。3%はインフレ調整前の実質リターンとしてはやや保守的~現実的な水準でしょう。国内外の債券やバランス型ファンドなどを組み合わせた堅実な運用イメージです。
- 20年間(例えば40歳~60歳まで)積み立てた場合:約330万円(=元本240万円+運用益約90万円)
- 30年間(例えば30歳~60歳まで)積み立てた場合:約580万円(=元本360万円+運用益約220万円)
ご覧のように、運用期間が長くなるほど複利効果で受取総額が大きく増えています。20年と30年を比較すると元本の差は120万円ですが、最終積立額の差は約250万円にもなりました。追加の10年間で得られた運用益が大きいことがわかります。この結果を見ると、「たとえ利回りは高くなくても長く続ければそれなりの金額になる」ということが実感できます。
しかし、それでも30年で約580万円です。前述の老後資金2,000万円にはまだ届きません。ただし、この金額は全額非課税で積み立てられている点に留意しましょう。もし課税口座で同じ運用をした場合、20%以上の税金が利益にかかります。iDeCoならその分もまるごと再投資できるため、実質的には課税口座よりも数十万円多く手元に残る効果があります。
利回り5%ならどうなる?
次に年平均利回り5%で運用できたケースです。5%は長期の株式投資の平均リターンに近い数字で、iDeCoで海外株式インデックスファンドなど積極運用した場合に目指せる利回りと言えます(もちろん保証された利回りではありませんが、仮定として設定します)。
- 20年間積み立てた場合:約410万円(=元本240万円+運用益約170万円)
- 30年間積み立てた場合:約830万円(=元本360万円+運用益約470万円)
利回り3%ケースと比べると、利回り5%では運用益が格段に増え、最終額も大きく膨らんでいるのがわかります。30年で約830万円となり、3%の場合(580万円)より250万円ほど多い結果です。20年の場合も3%の330万円に対して5%では410万円と、約80万円増えています。わずか2ポイントの利回り差でも、長期では数百万円の差となる点は重要です。
このように、もし高い利回りを達成できれば「月1万円でもかなり増える」ことになります。ただし株式主体で5%を目指す運用は価格変動リスクも高くなるため、一概に良いとも言えません。大事なのは、自分のリスク許容度に見合った運用で無理なく続けることです。利回り3%程度で安全運用しながらコツコツ続けるのも一策ですし、多少リスクを取って5%を狙いに行くのも一策でしょう。
20年・30年運用で比較してみよう
最後に、運用期間の違いによる差をまとめます。利回り3%と5%の場合で20年積立と30年積立を比較すると下表のようになります。
運用期間 | 年利3%の場合 | 年利5%の場合 |
20年間 | 約330万円 | 約410万円 |
30年間 | 約580万円 | 約830万円 |
※それぞれ毎月1万円拠出、利息・運用益は非課税再投資と仮定(iDeCoの税制メリットを考慮)。
ご覧の通り、同じ利回りでも10年長く積み立てるだけで最終金額は大幅に増加します。特に年利5%のケースでは、20年で約410万円だったものが30年では830万円とちょうど2倍程度になっています。年数を1.5倍にしただけで金額は2倍というのは、まさに複利効果が時間とともに加速していく典型例です。「時間を味方につける」ことが老後資金作りでは何よりも重要だとわかります。
以上のシミュレーションから、「月1万円でも無意味ではない」ことが定量的に確認できました。確かに2,000万円の目標に比べれば小さい額ですが、積み立てたお金は着実に増え、期間と利回り次第では数百万円規模の資産形成が可能です。特にiDeCoなら税金面のメリットが効いてくるため、同じ積立額でも課税される場合より有利です。
月1万円でも意味がある人とは?
前章までの内容から、月1万円の積立でも長期で見ればそれなりの資産形成は可能であることがわかりました。ただ、「それでも少ない」と感じるか「これだけ増えるなら意味がある」と感じるかは、人それぞれの状況によります。ここでは、月1万円のiDeCo積立が特にメリットを発揮するケースを考えてみましょう。言い換えれば、「月1万円でもiDeCoをやる意味が大いにある人」の特徴です。
節税メリットが大きい人
まず真っ先に挙げられるのが、節税メリットをフルに活かせる人です。具体的には、所得税・住民税の負担がある程度大きい人ほどiDeCoの掛金控除メリットが効いてきます。毎月1万円の積立でも、年間12万円の所得控除となります。例えば所得税率10%、住民税10%の方なら年間2万4千円の節税でしたが、仮に所得税率20%(年収目安600~700万円台)の方なら年間約3万6千円の節税効果になります。税率30%(高収入層)なら年間約5万4千円もの税負担軽減です。これは掛金12万円に対して45%もの“リターン”をただちに得ているのと同じ計算になります。
要するに、収入が高く税金を多く納めている人ほど、iDeCoの節税効果で得する額も大きいのです。月1万円の積立でも年間数万円の節税メリットがあるなら、それだけで「やる意義」があると言えるでしょう。特に会社員や公務員で年末調整や確定申告の際に控除を受けられる方は、掛金控除による即効的な節税メリットを実感しやすいです。
一方、専業主婦(夫)や学生など所得が低く元々税金をあまり払っていない人の場合、掛金控除の恩恵は小さいか感じられないことがあります。例えば配偶者控除内に収まる年収の方や非課税所得の方は、所得控除を受けても軽減される税がほとんどありません。そうした方にとっては、iDeCoのメリットの一つが活かせないことになり、「月1万円かけても意味が…」と感じるかもしれません。ただ、その場合でも次に述べる運用益非課税メリットは公平に受けられます。
退職所得控除をフル活用できるケース
先ほど触れた退職所得控除のメリットが最大限活きるケースも、月1万円の積立をやる価値がある人です。退職所得控除とは、一時金で退職金等を受け取る際に勤続年数に応じた金額まで非課税にしてくれる制度でした。iDeCoの場合、加入期間がこの「勤続年数」とみなされます。
例えば会社から退職金が出ない自営業者や、専業主婦(夫)でご自身に勤続年数がない方などは、iDeCoで積み立てた分をまるごと退職所得控除内に収められる可能性があります。具体的には、勤続(=iDeCo加入)年数20年で800万円、30年で1,500万円、40年で2,200万円といった大きな非課税枠が与えられます。先のシミュレーション結果からしても、月1万円程度の積立なら数百万円~最大でも1,000万円程度でしょうから、ほぼ確実に控除枠内に収まり税金ゼロで受け取れる計算です。
これは非常に大きなメリットです。仮にiDeCoで600万円積み立てて増やせたとしても、退職所得控除のおかげで一時金受取時に税金が一切かからなければ、その600万円は純粋に自分の老後資金として使えます。課税口座で運用していたら運用益に20%課税されたり、資産取り崩し時に所得税はかからないまでも元本部分には何の税優遇もありません。それに対し、iDeCoなら受取時にも大きな節税メリットが残っているのです。
特に勤続年数が短い人や退職金が出ない人にとって、iDeCo一時金を退職所得控除枠内に収めて全額非課税でもらえる恩恵は見逃せません。「月1万円でもiDeCoをやる意味がある人」の典型例と言えます。
他の投資と組み合わせて活用する戦略
月1万円という金額そのものは小さいですが、他の資産形成手段と組み合わせることで効果を発揮する人もいます。iDeCoは長期の積立に向いた制度なので、短期・中期の資金づくりは別の方法で補い、iDeCoは老後資金の核として位置付ける戦略です。
例えば、20~30代で資産形成を始める場合、iDeCoと並行してつみたてNISA(積立型の少額投資非課税制度)などを利用するのがおすすめです。NISAはいつでも資金を引き出せますし非課税枠も拡充されました。一方iDeCoは60歳まで引き出せませんが節税効果はNISA以上に高いです。それぞれ目的に応じて役割が異なるので、「流動性が必要な資金はNISA、老後まで使わない資金はiDeCo」と使い分けると良いでしょう。月1万円しか投資に回せない場合でも、例えばiDeCoに5千円+NISAに5千円のように併用すれば、流動性と節税のバランスが取れます。
さらに、ある程度資金に余裕がある方は預貯金や他の投資商品との組み合わせも有効です。iDeCoでコツコツ積み立てつつ、別枠で株式投資や投資信託(課税口座/NISA)にも資金を投じれば、将来の受取時期や目的に応じて資産を使い分けられます。また、後述するように融資型クラウドファンディングのような新しい投資商品をポートフォリオに加えるのも一つの戦略でしょう。重要なのは、iDeCoだけに頼らず全体として分散の効いた資産形成計画を立てることです。その中でiDeCoは税制優遇を最大限享受できる心強い制度として「やらない手はない」存在になります。
iDeCoだけで不安なら?分散投資で将来設計を強化しよう
ここまで、iDeCo(特に月1万円程度の少額積立)のメリット・デメリットを見てきました。「それでもiDeCoだけでは老後が不安だ…」と感じる方もいるかもしれません。そこで最後に、iDeCoを上手に位置付けつつ他の資産運用も組み合わせることで将来設計を強化するポイントを解説します。分散投資によって不安を和らげ、より盤石なマネープランを築きましょう。
iDeCoは長期・少額運用に最適
まず押さえておきたいのは、iDeCoは長期の資産形成に非常に適した制度だということです。掛金は少額からでOK、途中で運用商品のスイッチングも自由、そして何より長期で続けるほど税優遇と複利効果の恩恵が大きくなります。月1万円程度の無理のない金額でも、20年30年と積み立てれば先述のように数百万円のまとまった資金になります。これは、「貯金しよう」と思ってもなかなか続けられるものではありません。iDeCoなら強制的に天引きで貯蓄・運用する仕組みなので、意志に頼らずお金を貯められます。
また、「銀行預金に置いておくより、たとえ月1万円でもiDeCoでコツコツ運用しながら貯めた方が賢いお金の貯め方」と言われます。確かに普通預金に入れていても金利はごくわずかですし、使おうと思えば引き出せてしまうため貯まりにくいです。それよりは半ば強制的に老後資金に回してしまうiDeCoは、長期の資産形成には打ってつけなのです。
したがって、「iDeCoだけでは心配」と感じる方も、iDeCoは続けた上で不足部分を他で補うという発想が大切です。iDeCoそのものをやめてしまうと、せっかくの節税メリットや長期運用機会を手放すことになります。月1万円でも続ければ将来の土台になりますから、iDeCoは続行・活用を前提に考えましょう。
短中期のリターン確保には別の選択肢も
とはいえ、iDeCoは原則60歳まで引き出せないため、短期的・中期的な資金ニーズには応えられません。そこで、例えば5~10年後に使う予定の資金や、緊急予備資金については他の方法で準備しておく必要があります。具体的には、新NISA制度(2024年から拡充された少額投資非課税制度)や通常の証券口座での運用, あるいは安全資産での貯蓄などが考えられます。
新NISAは生涯の非課税投資枠が大きく拡大され、途中売却や引き出しも自由です。中期的な資産形成やライフイベント資金の準備にはNISAが適しています。一方、iDeCoは老後資金専用と割り切り、途中で手を付けなくて済む資金だけを充てましょう。目的別に「使えるお金」と「老後まで使わないお金」を分けて運用することで、安心感が高まります。
また、社宅制度が充実している企業の方などは住宅資金の準備は不要かもしれませんが、その代わり転職や独立時の資金、教育資金など中期の備えが必要かもしれません。そうしたケースでも、iDeCoは維持しつつNISAや預金で対応できます。要はiDeCo一本に絞るのではなく、時間軸に応じて複数の手段を組み合わせるのが肝心です。iDeCoだけでは確かに不安でも、NISAや預金と併用すれば大抵の資金ニーズはカバーできます。
融資型クラウドファンディングなどの併用メリット
資産運用の選択肢として近年注目されている融資型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング)を組み合わせる方法もあります。融資型クラウドファンディングとは、インターネット上のプラットフォームを通じて不特定多数の投資家から集めた資金を事業者等に融資する仕組みです。出資者(貸し手)は決められた金利による利息を受け取り、満期に元本償還を受けるという点で、企業への直接貸付けに似ています。
この融資型クラウドファンディングを活用すると、例えば年利3~6%程度の利回りを目指しつつ、毎月または四半期ごとに利息収入を得ることが可能です(案件により異なります)。つまり、iDeCoが60歳まで引き出せない「将来のお楽しみ」なのに対し、クラウドファンディングなら比較的短期間で利息というリターンを手にできるわけです。もちろん元本保証があるわけではなく、借り手のデフォルト(返済不能)リスクなども内在します。しかし、株式や投資信託と異なり価格変動が日々起こるものではなく、決められた契約期間(たとえば半年~2年など)が終われば原則元本が返ってくる点で、リスクの性質が異なります。
iDeCoと融資型クラウドファンディングを併用するメリットは、リスク分散とリターン機会の分散にあります。iDeCoは長期的な資産成長と節税効果がメリットですが、途中で現金化できない弱点があります。一方クラウドファンディングは流動性は劣るものの期間が限定され、案件を選べば定期的なキャッシュフローが期待できます。例えば「毎月1万円をiDeCo、別に毎月1万円をクラウドファンディング案件に投資」という形なら、老後資金を育てつつ今の生活にも多少の副収入をもたらす可能性があります。さらにクラウドファンディングの案件分野(不動産、事業資金など)によっては、株式や債券と違った値動きをするためポートフォリオ全体の安定性向上につながる場合もあります。
注意点として、クラウドファンディングの利息収入は基本的に雑所得扱いで課税されます(源泉徴収されている場合もあります)。したがって税優遇のあるiDeCoやNISAに比べると手取りリターンは低下します。しかし、それでも運用期間中にリターンを実現できる意義は大きいでしょう。「iDeCoだけでは将来が心配」という方が、iDeCo+クラウドファンディング+NISAといった形で三本柱を構築すれば、老後資金・中期資金・インカム収入のバランスが取れた盤石な資産運用プランになり得ます。
少額から始める堅実投資「LENDEX」の融資型クラウドファンディング
LENDEXは、2万円という少額から始められるため、投資初心者にも取り組みやすい融資型クラウドファンディングです。想定利回りは年6~10%と、銀行預金よりも高いリターンが期待できるうえ、不動産担保ローンへの出資となるため、相場変動の影響を受けにくく安定した運用が可能です。
また、毎月の分配金があるため、継続的なインカムゲインを得られる点も魅力です。多くの案件に担保や保証が設定されており、万が一貸し倒れが発生しても、担保処分などで出資金の回収が図れます。
さらに、サービス開始以来、貸し倒れゼロの実績を誇る点も投資家にとって安心材料です。ただし、元本保証はないため、リスク分散が重要です。複数のファンドに少額ずつ分散投資することで、リスク軽減を図ることができます。
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iDeCoの積立金額はどう決める?月1万円からのステップアップ術
最後に、「そもそもiDeCoの掛金(月々いくら積み立てるか)をどう決めればいいのか?」という点について考えてみましょう。特に現在月1万円で始めている方が、将来的に2万円などへ増額すべきかといった悩みを持つことも多いようです。ここでは、収支バランスの観点から適切な掛金の考え方と、月1万円からステップアップするタイミング・方法について解説します。
収支バランスから見た最適な積立額
iDeCoの積立額を決める際に重要なのは、ご家庭の収支バランスと将来の資金目標です。まず大前提として、毎月の生活に支障が出ない金額であることが第一です。生活費や住宅ローン・教育費など必要支出を賄い、さらに6ヶ月~1年分程度の生活費は緊急予備資金として手元や流動性の高い資産に置いておきたいところです。その上で余裕資金からいくら老後資金に回せるかを算出しましょう。
一つの目安として、現在加入者全体の平均掛金額を参考にする方法があります。iDeCo公式サイトの統計によれば、2023年3月時点でiDeCo加入者全体の平均積立額は月約16,000円です。会社員等の第2号被保険者の平均は約14,500円、専業主婦等の第3号被保険者は約15,300円、自営業者等の第1号被保険者は上限額が高いこともあり約28,500円となっています。この数字からすると、「月1万円」というのは全体平均より少し少ない程度で、決しておかしな金額ではありません。むしろ多くの人がそれに近い金額で積み立てているのが現状です。
しかし大切なのは、あくまで自分自身の経済状況やライフプランに応じて決めることです。例えば同じ会社員でも20代と40代では収支状況が異なるでしょうし、子育て前か真っ最中かでも余裕資金は変わります。平均額は参考程度にしつつ、以下のポイントを考慮して適切な額を設定しましょう。
目標金額から逆算する
老後までにいくら貯めたいか目標を定め、それを達成するのに必要な月額をシミュレーションします。例えば30歳で「60歳までにiDeCoで1,000万円作りたい」のであれば、年利3%運用と仮定して月2万円以上は積み立てたい、など具体的な数字が見えてきます。逆に「特に目標額はないが将来の年金の足しに」という目的なら、無理のない範囲(例えば手取り収入の5%程度など)の金額から始めても良いでしょう。
現在の貯蓄・投資状況とのバランス
すでに他の制度(企業年金や財形など)で老後資金を積み立てているなら、その不足分をiDeCoで補完する形で金額設定します。あるいは、つみたてNISA等で積立投資を並行している場合、全体での積立総額が適切かチェックします。月1万円をiDeCo、月2万円をNISAというようにトータル3万円投資しているなら、かなり頑張っている方でしょう。逆にiDeCo1万円だけで他に貯蓄が無いなら、少し額を増やすかNISAも活用するなど検討してもよいかもしれません。
税金や手数料面の効率
前述のように、課税所得のある方は掛金を上げれば上げるほど節税メリットが増えます。また手数料の固定費部分(171円/月)は掛金が多いほど相対的に軽くなります。例えば掛金5,000円だと171円は3.4%に相当しますが、掛金1万円なら1.7%、2万円なら0.85%となり負担感が薄れます。可能なら多めに積み立てた方が税・手数料効率は良いということも頭に入れておきましょう。
以上を踏まえて、まず現在無理なく出せる最適額を設定します。それが5,000円でも1万円でも構いません。重要なのは一度決めたら終わりではなく、ライフステージの変化に応じて適宜見直すことです。次の項で、その「見直しプラン」について考えてみます。
月1万円→月2万円にするタイミングと考え方
現在月1万円で積み立てている方が、今後掛金を増やすタイミングとして考えられるシーンをいくつか紹介します。
収入が増えたとき
昇給やボーナス増加、転職による年収アップなどで手取り収入に余裕が出たタイミングは、掛金引き上げの好機です。もともと生活に支障なく1万円積み立てていたなら、収入増分の一部をiDeCoに上乗せして月2万円にステップアップしても生活水準は維持できるでしょう。特に独身の方や共働きで生活費にゆとりがあるうちは、思い切って1万円以上の積立をすることがすすめられます。
支出が減ったとき
例えばローンの完済・繰上返済や、お子さんの独立・進学などで毎月の固定支出が減ったケースです。浮いた分の資金をそのまま消費に回すのではなく、将来のためiDeCo掛金に振り向ければ無理なく増額できます。「子どもが大学卒業したら、その分iDeCoを+1万円増やす」といったように、支出イベントの区切りで増額するのも賢明です。
税金対策を強化したいとき
年度途中で意外と残業が増え年収が上がりそう、扶養から外れた、住宅ローン減税が終わった等、税負担が増えそうな局面も掛金増額の検討ポイントです。掛金を増やせば所得控除が増えるので、結果的に手取り収入を確保しやすくなります。とくに年収が上がって住民税・所得税が増えた場合、そのままだと収入増分が税金に消える割合も高まりますので、iDeCo掛金で賢く節税するとよいでしょう。
運用状況を見て判断
iDeCo口座の運用成績が想定以上に好調な場合、さらなる資産拡大を狙って増額する手もありますし、逆に低迷しているからこそ安値で買い増すチャンスと捉える見方もあります。ドルコスト平均法で考えれば、積立額を増やすことで将来反発した際の利益も大きくなるからです。ただし運用状況に一喜一憂しすぎるのは禁物なので、基本は上記の収支変化に合わせて検討するのが良いでしょう。
具体的な増額方法ですが、iDeCoでは年1回まで掛金額の変更が可能です(金融機関への申請が必要)。現在の掛金から1,000円単位で増やせますので、例えば1万円→2万円だけでなく1万円→1万5千円など段階的に上げることもできます。ライフプランの見直し時(毎年の誕生月や年末調整時など)に、「今後1年この金額で問題ないか?」をチェックし、余裕があれば増額を検討しましょう。
一方で、途中でどうしても家計が苦しくなった場合には掛金を減額したり、最悪一時停止(加入者資格喪失による「運用指図者」への変更)も可能です。あまり怖がらず、無理のない範囲で最大限のメリットを享受する掛金額を探ってみてください。
最後に、将来的により大きな余裕資金ができた場合には、iDeCoの上限額いっぱいまで掛金を増やすことも検討しましょう。上限は職業等によって決まりますが、特に企業年金のない会社員(上限23,000円)や自営業者(上限68,000円)は枠が大きいです。枠いっぱいまで拠出すれば、その分大きな節税メリットを受けつつ老後資金を速いペースで形成できます。収入やライフステージに応じて、月1万円をスタート地点に段階的にステップアップしていくイメージで取り組むと良いでしょう。
まとめ|月1万円でも戦略次第でiDeCoは「意味ある」制度に
「iDeCoで月1万円積み立てても意味ないのでは?」という疑問について、制度の仕組みやシミュレーション結果、活用法を交えて考えてきました。結論として、月1万円でも十分に「意味はある」と言えます。ただし、それを意味あるものにするためには長期で続けることと戦略的に活用することが重要です。
確かに月1万円の積立だけで老後資金すべてを賄うのは難しいでしょう。しかし、iDeCoの強力な税制メリット(掛金控除・運用益非課税・受取控除)のおかげで、同じ1万円を積み立てるにしても他の方法より効率よく資産形成ができます。シミュレーションでも、たとえ利回り3~5%程度でも数百万円規模に育つ可能性が見えました。月1万円を何もしなければ単純に毎年12万円ずつ貯まるだけですが、iDeCoで運用すれば時間と複利が味方となり大きく膨らむのです。
また、iDeCoは他の制度や商品と組み合わせてこそ真価を発揮します。老後資金の土台としてiDeCoを活用しつつ、中期資金はNISAで準備する、手元流動性は預貯金で確保する、さらに余裕があれば融資型クラウドファンディング等でインカム収入を得る、そうした総合的なマネープランの中に位置付けることで、iDeCoの少額積立も大きな意味を持ちます。
月1万円という金額は決して恥じるような少ない額ではありません。平均的な加入者に近い水準であり、多くの方がまずはその程度からスタートしています。大切なのは「継続は力なり」で、コツコツ積み立てる習慣と増やす工夫です。必要に応じて積立額を見直し、節税メリットを最大化し、無理なく長く続けましょう。そうすれば、たとえ月1万円でも10年、20年、30年後にはしっかりとした老後資金の柱になっているはずです。
ぜひ今回の記事を参考に、iDeCoを賢く活用してみてください。将来、「やっておいて良かった!」と感じられる心強い制度になることを願っています。